コラム Vol.06    技術を大切にする社会を


2008.03.12

 驚くニュースが流れました。

 パイオニアがPDPパネル事業から撤退するということです。パイオニアは富士通、NECとほぼ同じくしてPDPテレビに参入して、薄型大画面テレビ市場を育てた貢献企業のひとつです。新しい技術を生み、育て、市場を作ってきた富士通、NECに続き、パイオニアがプラズマパネルから撤退するのは、技術者として大変残念に思います。
しかし、プラズマテレビの市場拡大はさらに続き、将来には明るい展望が開けているのです。発展している市場でもリストラが行われるという現状は、この市場に身をおくことの厳しさを感じます。幸い、パイオニアは松下電器からパネルを買い、プラズマテレビ事業を続けるといいます。このことは、大変心強く思います。パイオニアは、常にPDPの先端技術の開拓にチャレンジし、業界を先導してきた企業です。この後も、その姿勢を貫かれることを期待します。

 PDPだけでなくLCDも共に厳しい低価格競争に耐えるために、大きな提携が連日のように新聞をにぎわせています。PDPとLCDはCRTの後を継ぐ2つの代表ディスプレイデバイスに成長しました。共に成功した理由は入口市場の育成に成功したからです。入口市場という言葉は、2003年に私が東京大学でディスプレイの寄付講座を開いたときに、初めて開いたシンポジウムでの講演でお話をした考え方です。誰でもが考え付くことですが、新しいデバイスが市場参入に成功するときのモデルを分かりやすい言葉で説明したものです。

 LCDの入口市場は携帯端末、パーソナルコンピュータ(PC)でした。当時は画質も悪く、今から考えるととても考えられないようなレベルでしたがLCDしかできないために、ノートPCは100万円程度の高価な価格でも買われました。競争相手のいない市場でLCDは力をつけて今では大画面テレビも可能にしてきました。

 一方、PDPは42型テレビが入口市場でした。1996年に初めて実用したときは1台200万円しました。当時36インチのCRTが20万円程度でしたからこれも10倍近い価格でした。当時はまだ、画質は現在のものに比べると大きく劣るものでしたが、初めて見る大画面の映像の迫力は、多くの人に感動を与えました。競争相手のいないこの市場でPDPは産業用テレビとして毎年倍々ゲームで伸びてきました。

 これらの例は、新規デバイスが市場参入に成功するには、新しい市場を自分で持ってくることが必要であることを示しています。入口市場参入の当初は比較的健全な収益ベースで企業活動を進めることができたのです。

 しかし、PDPの健全な市場状況はLCDが大画面市場に参入したことから一変してきました。LCDはもともと、小型市場で競争にさらされ、低価格化で疲弊しきっていましたが、大画面市場への参入によりその苦しみから逃れようとしました。そして、大画面市場での競争が始まりました。この結果、大画面市場でも、急激な市場拡大と共に急激な価格低下を招いています。
企業の革新はこの急激な価格低下に耐えられません。そこで大幅な企業再編成です。

 ユーザは価格の低下で買いやすくなったかもしれません。しかし、LCDとPDPの成長の影には、苦しみぬいて実用化した技術者の努力があります。せっかく育てた技術も、急激な価格の低下で、初期投資も回収できない状態に追い込まれ、再編に継ぐ再編で、本当のすぐれた技術は消えてしまいます。
 パイオニアは最近「KURO」という新しいブランドを生み、これまでのPDPもLCDも実現できない美しく高いコントラストのテレビを発表し、高付加価値路線を歩むことを戦略に据えました。しかし、その価格は1.5倍程度に高いために、なかなか売れませんでした。

 今の市場では、技術が高い、美しいだけでは売れません。とにかく安いことが求められます。しかし、わたしは技術が高いもの、美しいものの付加価値を認める社会が必要だと思います。安くて、使い捨ての時代は卒業しないといけません。高い技術に支えられた良い商品を大事に使う文化が必要です。これも、この美しい地球を守ることのひとつの運動です。またこれが更に、技術者が新しいデバイスを生んで、社会に貢献する力を得る原動力になると思います。

 技術者が幸せになる、消費者が満足する、これらは相反するものであってはならないと感じながら、もどかしさを覚える昨今です。


(技術は愛)

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